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映画

『マイ・ライフ・ディレクテッド・バイ・ニコラス・ウィンディング・レフン』
妻だからこそ撮れた孤高の天才監督の素顔。映画監督であり続けることの苦悩に迫るドキュメンタリー。

『マイ・ライフ・ディレクテッド・バイ・ニコラス・ウィンディング・レフン』レビューのトップ画像

こんにちは! 映画館の各スクリーン別自分的ベストポジションを
映画鑑賞する度に探りながら記録し続けている、西田メルモです!

今回は、7月8日公開の『マイ・ライフ・ディレクテッド・バイ・ニコラス・ウィンディング・レフン』を観てきました!

世界中から期待される映画監督が、映画を作り上げる過程で苦悩する様子を
隠すことなく映し出したドキュメンタリー。

妻が撮影したからこそ見ることのできる監督の素顔、
映画を作るということを直に感じさせてくれる映画です。

『マイ・ライフ・ディレクテッド・バイ・ニコラス・ウィンディング・レフン』

ポスター画像
© SPACE ROCKET NATION. 2014
原題
MY LIFE DIRECTED BY NICOLAS WINDING REFN
製作年
2014年
製作国
アメリカ
配給
クロックワークス
上映時間
59分
監督
リブ・コーフィックセン
キャスト
ニコラス・ウィンディング・レフン、
ライアン・ゴズリング、
クリスティン・スコット・トーマス、
アレハンドロ・ホドロフスキー、他

【作品紹介】

カンヌ国際映画祭を賛否両論の渦に巻き込んだ
問題作『オンリー・ゴッド』撮影の裏側を完全公開したドキュメンタリー

ライアン・ゴズリング主演のクライム・サスペンス『ドライヴ』で、
2011年の第64回カンヌ国際映画祭監督賞を受賞した
デンマーク出身の映画監督ニコラス・ウィンディング・レフン。

カンヌ映画祭でスタンディングオベーションとブーイングを同時に巻き起こしたという
世紀の問題作『オンリー・ゴッド』の撮影の裏側、そしてライアン・ゴズリング、アレハンドロ・ホドロフスキーといった著名な映画人との交流を、監督の妻である女優リブ・コーフィックセンが撮影した。

本作は、常に世界を挑発し賛否両論を浴びてきた
孤高の天才N・W・レフン監督の、真実の姿に迫ったドキュメンタリーである。

【あらすじ】

静と動が入り乱れるヴァイオレンス、唯一無二の色彩感覚、そして計算しつくされた
圧倒的な映像美で、ここ日本でも熱狂的なファンを持つレフン監督。
『ドライブ』の次に製作するのが、『オンリー・ゴッド』だ。
その撮影場所に選んだのは、祖国デンマークから遠く離れたタイだった。

前作の世界的成功と周囲の期待、
慣れない異国の地でトラブルが続出する撮影、
女優としてのキャリアを捨てて撮影に同行した妻とのすれ違い、
そして常に賛否が分かれる自身の作品への迷い……

様々な重圧に囚われまいと葛藤するが、
その意識は彼を捉えて離さず、徐々に彼を追い詰めていく――。

家族だから映し出すことができる
鬼才と呼ばれる男の素顔

劇中画像
© SPACE ROCKET NATION. 2014

『ドライブ』で一躍世界の注目を浴びることになったレフン監督。
次作『オンリー・ゴッド』製作期間を通し
苦悩する彼自身の姿を映し出すと同時に、
カメラを回す妻の女優リブ・コーフィックセンの苦悩を映し出しています。

撮影現場でスタッフやキャストと交わる姿、
自宅で過ごす彼のプライベートな姿、
そして映画に対する彼の熱い思い、苦悩、様々な感情がそのままの形でカメラに収めまれています。

映画監督として生きるとはどういうことなのか、
そしてその周りで生きるとはどういうことなのか、
これほどまでに現実の姿を映し出した映画は他にないのではないでしょうか。

今だから分かる、レフン監督の真意が見える本作、大いに観る価値のあるドキュメンタリー映画です。

孤高の天才 ニコラス・ウィンディング・レフン

劇中画像
© SPACE ROCKET NATION. 2014

レフン監督 初期の略歴

1970年にコペンハーゲンで映画監督の父と撮影監督の母のもとに生まれ、
8歳の時に両親とともにニューヨークに渡る。

17歳でコペンハーゲンに戻るが、高校を卒業すると
すぐにニューヨークに戻って映画学校に通うが退学になり、
その後デンマークの映画学校に入学するがこちらもすぐに退学する。

レフン自らの脚本・監督・出演による短編映画が
マイナーなケーブルテレビ局で放送されると、彼の人生を変えるオファーが来る。

320万クローネの出資により、24歳の若さで脚本・監督を務めた
バイオレンス映画『プッシャー』(96)が公開され、批評面でも興行面でも大成功を収める。
また、2作目となる『ブリーダー』(99)も高い評価を得る ――。

ここまでの経歴を見ただけでも、
レフン監督が特別な何かを持って生まれ育ってきたのだと感じることができます。

レフン監督は、人とは違う独特の感性を持ち合わせた
アーティストと呼べる映画監督だといえるでしょう。

彼の生み出す色彩、サウンド、世界観は特異であるが故に
世界中の多くの人が魅了され、それと同時に理解されず批判を受けることも多くあります。

“賛否両論があるのは、いい映画だという証拠だ。”

レフン監督は、万人に愛される映画を作るのではなく、
“いい映画”を作り出す唯一無二の映画監督なのです。

映画『オンリー・ゴッド』とは
監督にとってどういう作品だったのか

劇中画像
© SPACE ROCKET NATION. 2014

『オンリー・ゴッド』あらすじ

タイのバンコクでボクシング・クラブを経営しているジュリアン(ライアン・ゴズリング)の兄ビリーがある日、惨殺される。母のクリスタル(クリスティン・スコット・トーマス)は溺愛する息子の死を聞きアメリカから駆け付けると、怒りのあまりジュリアンに復讐を命じるが、ジュリアンたちの前には元警官だと名乗る謎の男チャンが立ちはだかる。そして、壮絶な日々が幕を開けるのだった ――。

カンヌ国際映画祭を賛否両論の渦に巻き込んだ世紀の問題作と言われた本作。
この作品が万人に受けないことは、監督本人もスタッフも承知の上で製作することを決断しています。

レフン監督は、映画が公開される前に、このように述べています。

“この映画は、私が今までに作った映画の蓄積だ。
フルスピードで創造性の衝突を起こしてみたかったんだ。”

実際筆者も映画を観ながら、これは激しく賛否が分かれるのだろうと思いましたし、
封切り後は称賛の声もありながら、メディアでは批判的意見が大きく取り上げられました。

この作品を観ている最中は、キャラクターに対する憎悪、共感、怒り、悲しみなど、
様々な感情が入り混じり終始感情が落ちつきませんでした。
しかしそれと同時に、レフン監督が生み出すワンカットワンカットがまるで絵画のように美しく、
目を見張るようなその独特の色彩感覚に魅了され続けます。

この作品は、映画監督、そしてアーティストとして生きる人生のなかで
その時の“今”爆発させるべき彼の感性が凝縮された、必然的に生み出された映画なのだと思います。

映画監督として生きること、その家族であること

劇中画像
© SPACE ROCKET NATION. 2014

この映画は、レフン監督がどれほど悩みながら『オンリー・ゴッド』を製作していたかを鮮明に映し出しています。

前作が大ヒットを収め高く評価されればされる程、次作への期待は高くなります。
否が応でも周りの声が届くようになったこの時代、それを完全に遮断することは不可能です。

耳に入ってくる周囲の声を意識しないよう意識しながら自身の作品を生み出すことは、
それだけでもとてつもないエネルギーを要することだと、この映画を通して痛感します。

また、それだけ大変なことを成し遂げようとする彼の隣で
妻として支え続けることも同等にとてつもないエネルギーを要すること
だと分かります。

女優としてのキャリアを築いてきた妻リブ・コーフィックセンにとって
陰で夫を支え続け、2人の娘の子育てをしながら家で待つという人生は最良のものとは言えないでしょう。

娘2人を連れて、『オンリー・ゴッド』の撮影に同行したリブ。
夫を愛し、家族を想い下した決断でも、自分のキャリアを完全に捨てて、
彼の監督生命を第一に支え生きていく人生が、自分にとって幸せと言えるのか。
リブは、アーティストを支える家族としての務めを自覚しながら、
それは自分の人生を生きることが出来なくなることだという事実に不満が募り、苦悩します。

カンヌ国際映画祭の日、向かう車内で
不安に押しつぶされそうになりながら緊張している父・レフン監督、同様に緊張する母・リブに言った長女の言葉、

「この世の終わりじゃない。たかが映画よ。」

ここまで2人の苦悩する姿を見てきた観客にとっては、ずっしりと納得のいく言葉です。
両親にとって、この言葉は響いたのか……。

映画に命を懸けるように生きる映画監督レフンと、その妻として隣で支え生きるリブ、
2人の人生と、その中で生まれる感情を隠すことなく映し出した映画
『マイ・ライフ・ディレクテッド・バイ・ニコラス・ウィンディング・レフン』。

映画、アートに携わる人間の人生が見える、かつてないドキュメンタリー映画になっています。

© SPACE ROCKET NATION. 2014
プロフィール画像

西田メルモ

知識量少なめ、熱量多めの映画大好き人間(女)。
映画館で観るのが好きで、毎週何を観に行くか考えている時が至福です。
ホラーとグロテスクな映画以外、何でも観ます。
将来、お気に入りの映画館まで自転車で通える距離に家を構え、
その家にシアタールームを作るという野望を抱き生きています。

(文/西田メルモ)

※記事内容はすべて公開日時点の情報となります。

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