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エンタメ

フィリピンの無法地帯に踏み込む
ドキュメンタリーを超えたリアリティ。
私たちが見るべき“現実”が描かれた衝撃作です!

『ローサは密告された』レビューのトップ画像

こんにちは! カメラワークが激しそうな映画を観るときは、
必ず酔い止めを飲んでいきます、西田メルモです。

今回は、7月29日公開の『ローサは密告された』を観てきました!

圧倒的リアリティと緊迫感でこの世界の闇を描いた注目作。
もはや物語ではなく、目撃すべき“事件”といえます。

『ローサは密告された』

ポスター画像
© Sari-Sari Store 2016
原題
MA’ROSA
製作年
2016年
製作国
フィリピン
配給
ビターズ・エンド
上映時間
110分
監督
ブリランテ・メンドーサ
キャスト
ジャクリン・ホセ
フリオ・ディアス
フェリックス・ロコ
アンディ・アイゲンマン
ジョマリ・アンヘレス 他

【作品紹介】

雑貨を売る。麻薬を売る。それが日常。

マニラの無法地帯を舞台にした、フィリピンの闇に踏み込む衝撃作。
貧困から麻薬密売に手を出した結果、
警察から命を狙われるという麻薬撲滅戦争の連鎖を描いたリアルなスラムの現状。

小さな雑貨店を営む主人公のローサを演じるのは、第69回カンヌ国際映画祭主演女優賞を受賞したジャクリン・ホセ。
クリステン・スチュワート、シャーリーズ・セロン、イザベル・ユペールら名だたる女優陣を抑えての受賞となったその演技は、名優ドナルド・サザーランドが「超一流の演技だ」と絶賛。
また、カンヌの審査員のひとりだったキルステン・ダンストはラストシーンに涙を流した。

監督は世界が注目する鬼才ブリランテ・メンドーサ。
第62回カンヌ国際映画祭では『キナタイ マニラ・アンダーグラウンド』(09)で監督賞を受賞。
クエンティン・タランティーノやショーン・ペンが絶賛するその手腕で、
現在のフィリピンの映画シーンを牽引している。

【あらすじ】

ローサはマニラのスラム街の片隅でサリサリストアを夫ネストールと共に経営している。

かつての日本の下町のように、密接して暮らす人々のつながりは深い。
ネストールはいつもだらだらしてばかりだが気は悪くない。店を切り盛りするのはローサ。
ローサには4人の子供がおり、彼らは家計のため、本業に加えて少量の麻薬を扱っていた。

ある日、密告からローサ夫婦は逮捕される。
さらなる売人の密告、高額な保釈金……警察の要求はまるで恐喝まがいだ。
この国で法は誰のことも守ってくれない。

『ローサは密告された』公式サイトより)

まるでドキュメンタリーかと思わせるような
現実社会を描き出した映画

劇中画像
© Sari-Sari Store 2016

腐敗した警察、密売と密告の連鎖を描く『ローサは密告された』。

主人公ローサの一家が営んでいるお店は、日本でいう“キヨスク”のようなどこにでもある小型売店です。
そこで、麻薬が他の雑貨と同じように売られているのです。

本作には違法薬物の隠語のひとつである“アイス”という表現が登場しますが、フィリピンのスラムの人々にとって、
麻薬はまさにアイスクリームのような一般的な嗜好品・生活雑貨のひとつになっています。

麻薬を吸っている人に「ちょっとちょうだいよ」と気軽に声をかける様子は、
まさに「アイス一口ちょうだいよ」と声をかけるくらいの気軽さです。

この背景には貧困があり、人々は違法行為をしているという意識がほとんどなくなっている……
これが、フィリピンのスラム街の現状なのです。

主人公のローサも、決して特殊な人なのではなく、フィリピンのどこにでもいる売店のおばちゃんです。

ただ、生活が苦しいから、家計のために少量の麻薬も取り扱うようになったというだけ……。
そして買う側も、生活が苦しいから、現実を忘れるために麻薬を嗜んでいるというだけ……。

普段、その地域に住んでいない人達が目にすることはなく
あまり知られてこなかった、貧困から始まる終わらない麻薬の連鎖という“現実”
それを、スリリングなカメラワークで、まるでフィリピンの暗部に潜入しているかのように見せる本作は、
ハイクオリティなドキュメンタリーを観ているかような感覚に陥らせます。

良いドキュメンタリーは、人々にカメラがいることを忘れさせて撮るものですが、
どれほどの手腕でも、カメラの存在を消すことはできません。

本作は、シナリオがある一本の“映画”です。
しかし、それはドキュメンタリーとしか思えないような映像で、
観客はある一定の“視点”となってローサ一家の最悪の夜を観ることになるのです。

劇中画像
© Sari-Sari Store 2016

雨の音、雑踏、ラジオの声……そして気だるい熱気の中で聞こえてくる人々の会話。
熱帯夜のスラムでの警察との攻防。
家族のように親しかった、狭い狭いコミュニティからの密告。

その臨場感は、まるでスラム街に迷いこみ、
たまたまフィリピンを蝕む闇を目撃してしまったかのような感覚
にさえなります。

観客は、フィリピンのスラムでのよくある1日……ローサの一家にとっては最悪の1日の、
“この世界が抱えている闇”の目撃者となるのです。

汚職で腐りきった“警察24時” in フィリピン

劇中画像
© Sari-Sari Store 2016

麻薬密売の罪で連行されたローサと夫のネストール。
彼女たちを待っていたのは、保釈金という名目で高額の賄賂を要求する現地警察でした。

ドキュメンタリーとしか思えない迫力のカメラワークが映し出す、腐敗しきった警察の実態……。
その様子はまさに、汚職で腐りきっているバージョンの“警察24時”です。

抜け出せない貧困の中で、暮らしを少しでも良くするための雑貨 “麻薬” の密売。
そこにいる誰もが必死に生きていて、生き残るために家族同然の相手をも密告してしまう……。
この現状を考えると、連行されてしまったことを、単に「運が悪かった」というだけで済ますことはできません。

警察にとっては、密告で捕まえた麻薬売人からの賄賂が大きな稼ぎとなります。
そこに暮らす人々が容易に支払うことのできない高額な保釈金を要求し、暴力や殺人さえ厭わない。
大量の麻薬と金を所持していた売人をつかまえた時、押収した金を嬉々として山分けしながら巡査たちは叫びます。

「大物を釣り上げたぞ!」

捕らえた人々を、人ではなく、獲物としか見ていないことが伝わってくる一言です。
その没収したお金で宴会を始める様子は、山賊のようにも見えます……。
この地域で警察に捕まるということは、同時に人としての尊厳を一瞬で奪われるということを意味しているのです。

劇中画像
© Sari-Sari Store 2016

しかし、悪の権化に見える警察たちも、財政状況がいつも逼迫していて予算がなく、給与も少ない公務員。
本作に登場する警察官も、月収が2~3万程度だと推定されています。
賄賂がなければまともに暮らしていけない、
警察も、少しでも生活を良くしたいと考えているのは、皆と同じなのです。

ローサ一家の場合は、その手段が麻薬の密売で、警察の場合は賄賂。
すべての背景にあるのは、抜け出すことが困難な、あまりにも根深い貧困です。

生きていくために違法と合法のギリギリのゾーンを渡り歩く、ローサのような普通の人たち。
暮らしていくために法を犯した人たちを人間扱いしない警察。

犯罪を犯したから悪なのか、仕方なく手を染めた悪事は悪じゃないのか……。

何が正しいと言い切ることのできない状況は、まさに現実そのもの。
善悪二分というわけにはいかず、複雑な事情が入り組んでいる……
それこそが、ただの物語として完結することのできない“現実”なのです。

どれだけ暮らしを良くしてくれる物であろうと、麻薬は麻薬。
依存を生み、その禁断症状は人を人でなくすものです。
また、麻薬取引で発生した金銭が、戦争やゲリラ行為の資金源になっているという事実も忘れてはいけません。

人としての尊厳を維持するために起こす悪事は、許されるべきものなのか……。

本作は、この世界に生きる私たちが目にすべき、“現実”を描いた作品なのです。

カンヌ国際映画祭主演女優賞も納得の演技

劇中画像
© Sari-Sari Store 2016

ドキュメンタリーとしか思えない、リアリティ溢れる作品である『ローサは密告された』。
登場人物たちが心情を語るような台詞はなく、モノローグもありません。
交わされる会話は、日常会話。そして、金銭に関するやり取りばかりです。

キャラクターの心情を語るのは、その表情のみ。

本作を通して、表情は言葉以上に、感情のすべてを語ることができるのだと思い知らされます。
そして、言葉をどれだけ並べても語ることのできない、その人が歩んできた人生そのものを表すことができるのです。

それを体現する主演のローサ役ジャクリン・ホセの演技、その表情を見たとき、思わず呼吸が止まりました。
本作を見終えた時、誰もが彼女の <カンヌ国際映画祭主演女優賞> の受賞に深く納得できると思います。

圧倒的リアリズムのなか、映画だからこそ映し出すことのできる“現実”。

なぜ今、世界の映画界がフィリピン映画で沸きかえっているのかがわかる、
映画が好きな方には、絶対観てもらいたいと思える作品です。
激しく心が動かされる、まさに衝撃作です!

この世界が抱えている闇の目撃者となる本作、ぜひ劇場でご覧ください!

© Sari-Sari Store 2016

『ローサは密告された』

7月29日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー!
映画HP : http://www.bitters.co.jp/rosa

プロフィール画像

西田メルモ

知識量少なめ、熱量多めの映画大好き人間(女)。
映画館で観るのが好きで、毎週何を観に行くか考えている時が至福です。
ホラーとグロテスクな映画以外、何でも観ます。
将来、お気に入りの映画館まで自転車で通える距離に家を構え、
その家にシアタールームを作るという野望を抱き生きています。

(文/西田メルモ)

※記事内容はすべて公開日時点の情報となります。

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