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こんにちは! 北欧の映画を観る時は、
事前に撮影国のストリートビューで少し散歩してみます、西田メルモです。
今回は、8月19日公開の『いつも心はジャイアント』を観てきました!
リアルで厳しい現実世界とファンタジーな美しい想像世界が織り成す、
愛に満ちたメッセージが込められた、素晴らしい物語です。
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- 原題
- Jatten
- 製作年
- 2016年
- 製作国
- スウェーデン・デンマーク合作
- 配給
- ブロードメディア・スタジオ
上映時間- 90分
- 監督
- ヨハネス・ニホーム
- キャスト
- クリスティアン・アンドレン
ヨハン・シレーン
アンナ・ビエルケルード
リンダ・フェイス
他
巨人(ジャイアント)のように強くなれたら。巨人(ジャイアント)のように大きくなれたら。
生まれつき頭骨が変形する難病を抱えながらも懸命に生きる青年の姿を描き、
スウェーデンのアカデミー賞と称される「ゴールデン・ビートル賞」で
作品賞を含む3部門を受賞したヒューマンドラマ。
監督を務めるのは、本作が長編デビュー作となるヨハネス・ニホーム監督。
監督が子供の頃に周りと上手くコミュニケーションがとれなかった思い出や、
障害者向けの施設で働いた経験をもとに作り上げた本作は、昨年スウェーデンで最も感動を呼んだ。
また、主人公の青年リカルドが熱中するスポーツとして登場するペタンクは、
木製のビュット(目標球)に金属製のボールを投げ合って、相手より近づけることで得点を競うスポーツ。
シンプルなルールと奥深さからヨーロッパで盛んであり、老若男女に人気の競技である。
主人公が空想の世界で巨人となって闊歩する風景は北欧の豊かな自然のイメージと、
映画ならではの夢幻的なファンタジーの映像が合わさった幻想的なもの。
色彩豊かな美しい山岳地帯の風景も見どころのひとつ。
ドキュメンタリーと見まがうリアルな現実描写とファンタジー・シーンを共存させ、
閉塞的な状況と、そこに差し込む一条の光を描いた感動の一作。
リカルドは頭蓋骨が変形する難病を患い、施設で暮らしている。
父はなく、母親も精神を病み、別の施設で過ごしている。母に会うことも出来ず、特異な見た目から差別の目に晒されてきたリカルドは、
辛い日々のなか、自らを巨人化した不思議な世界を空想するようになっていた。そんなリカルドの人生は、ペタンクという球技で出会い一変する。
練習を通じて、親友のローランドやたくさんの仲間を得た彼は、
ペタンクの北欧選手権に出場することを決意する。大会で優勝することが出来れば、きっと母親に元気を与え、
いつか一緒に暮らす事ができると信じて ――。
頭骨変形の難病を抱えている主人公、リカルド。
本作を鑑賞し始めたとき、観客はリカルドの容姿に少なからず驚いてしまうと思います。
しかし私たち観客はすぐに、彼の真っ直ぐな心、ペタンクという競技への熱い思い、
友人ローランドと楽しく会話する様子を見て、リカルドの魅力に気がつきます。
彼が嬉しそうだとこちらも嬉しくなり、ペタンク競技中は彼が勝利できるようにと、全力で応援してしまいます。
観客はいつのまにか、リカルドのチームメイトのような気持ちになっていくのです。
そんな魅力的なリカルドの他にも、個性的な登場人物が多い本作。
その中でも、主人公リカルドを守り、理解し、ちょっとしたことでも
共に笑い合える親友ローランドは、本当に素晴らしい人物です!
リカルドとの他愛ないやりとりを見ても、2人の関係は同情ではなく本物の友情であり、
そこには強い絆があるのだと伝わってきて、観客に心地よさを感じさせます。
一方で、本作には、リカルドをいじめ、馬鹿にする人も多く登場します。
リカルドを見下し、差別意識を持つ人々。
珍しい難病を患い、特異な外見をしているから向けられる悪意……。
本作は、それだけではなく、日常のあらゆる場面で遭遇する、
人が他人に対して向ける悪意について、メッセージを持っているのです。
ヨハネス・ニホーム監督は、本作についてこのように言っています。
私が言いたいのは、不幸や惨めな気持ちは私たち全員の心の中や経験の中に、
いろいろな形で渦巻いているということです。
そして、それはどんどん悪化していく。
(中略)
リカルドがこの作品で経験していることは、その中でも最悪な状況です。
でも、想像力がリカルドを救う力になります。
リカルドがされたように、動作や話し方を真似したり、遠くから笑ったり、「早くどけ」と怒鳴ったりする行為……。
多くの人が、そういう行為を目撃した、あるいはされた、中にはその行為をしてしまったことがある方もいるかと思います。
本作の中で目撃する蔑視や嘲笑、これは映画の中だけの特別なものではありません。
私たち誰しもが経験しうる、日常の中に存在している悪意です。
これは決して、リカルドだけの物語ではないのです。
私たち全員が対峙している現実を描いた物語。
私たちの心の中に生まれる「そこに希望はないのか?」という問いに対し、
監督から送られる愛に満ちた答えを提示している物語。
それが本作、『いつも心はジャイアント』です。
主人公リカルドの母は精神を病み、部屋で鳥を飼っています。
籠の中にいる鳥。
部屋の外に出ることはありません。
窓から外の景色が見えて飛んでいっても、窓ガラスにぶつかり、外へ飛んでいくことは出来ません。
この様子は、彼女の息子であるリカルドの状況と重なります。
リカルドは、頭蓋骨が変形している難病から視界が歪み、呼吸もつらく、言葉も上手く話すことが出来ません。
そして周囲の人や状況が邪魔をして、外にとび出すことが出来ません。
鳥もリカルドも、現実という壁に囲まれた部屋に閉じ込められ、飛び立つことができないのです。
現実の世界に閉じ込められたリカルドは、空想の世界で60メートルの巨人に変身します。
巨人になった彼は、制限のない美しく彩られた幻想的な風景の中で、どこへでも歩いていきます。
彼を打ち倒す者も、見下ろす者も、見下す者もいません。
色鮮やかな世界の中を、何にも遮られずに進む巨人の様子はとても美しく、
私たち観客に解放感を与え、自分の想像する力で自由になる世界を感じさせてくれます。
現実は、見た目や行動が"普通"から少し外れるだけで、“悪いもの”として捉えられる世界。
時に不平等で、たくさんの不条理なことが起こる世界。
難病を抱えるリカルドだけではなく、人は誰しも、
窮屈な現実世界に閉じ込められた存在といえるのではないでしょうか。
それでも、変えられない現実すらも含めて、すべてを超越できるものがあるのかもしれない。
例えばそれは、純粋な思いや想像力、深い絆や愛なのかもしれない。
本作は、そんな美しい希望を与えてくれる映画になっています。
映画館での映画鑑賞の大きな魅力のひとつが、見終わった後の余韻の大きさだと思いますが、
本作ほど切なくも愛おしい余韻が続く映画はないと思います。
部屋に西部劇のポスターを貼るくらい、西部劇が好きなリカルド。
彼が自転車に乗っている時に流れる音楽もウエスタン調で、まるでリカルドが馬に乗って駆けているかのようです。
西部劇のガンマンは、まさに自由の象徴です。
町を救った後は、その町に留まらず愛馬と去っていきます。
まるで羽でも生えているかのように、どこへでも行くことができるガンマン。
何にも縛られず、ただ馬と共にどこまでも行く。時には、愛する人を後ろに乗せて……。
映画を観終わる頃には、リカルドがガンマンであるかのように見えました。
現実を打ち破る豊かな想像力と強い思いがあれば、飛び立てない場所なんてない。
そう感じさせてくれる、希望と愛に満ちた作品です。
是非、劇場でご覧下さい!
『いつも心はジャイアント』
8月19日(土)新宿シネマカリテほか全国順次公開
映画HP : http://www.giant-movie.jp
知識量少なめ、熱量多めの映画大好き人間(女)。
映画館で観るのが好きで、毎週何を観に行くか考えている時が至福です。
ホラーとグロテスクな映画以外、何でも観ます。
将来、お気に入りの映画館まで自転車で通える距離に家を構え、
その家にシアタールームを作るという野望を抱き生きています。
(文/西田メルモ)
※記事内容はすべて公開日時点の情報となります。
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